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大阪高等裁判所 昭和53年(ネ)2172号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

まず、被控訴人は、本件賃貸借契約において、控訴人は被控訴人が本件建物を自由に転貸しうることを予め一般的に承諾し、被控訴人において転貸の都度個別的に控訴人の承諾を要しない旨の特約がなされたと主張するので判断する。

<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができ<る。>

被控訴人は、それまで経営していた喫茶店を吉川不動産商会こと吉川忠の仲介で処分し、新たにスナツク店を経営することを企画し、将来万一賃借店舗を明け渡さなければならなくなつた場合には投下資本回収のため賃借後に自己の費用で附加した什器・備品、内装その他の店舗設備等を右明渡の時点で第三者に処分することを賃貸人が予め認める旨の特約付という条件で、適当な賃貸店舗の紹介を右吉川に依頼していたところ、同人から本件建物を紹介された。一方、控訴人は、本件建物を島吉昭子に賃貸し、同人は、同建物を使つておしぼり屋のほか「バイパス」という商号でスナツクを経営していたが、同建物賃借契約を解消し右商売をやめたい旨控訴人に申し出るとともに、不動産業者の仲介でそのあとの本件建物を賃借したいと希望する被控訴人をさがしあてて控訴人に紹介した。そこで、控訴人と被控訴人とは、仲介人の右吉川及び全日建設こと松木久義のほか、被控訴人の知人である美村滉の立会のもとに本件賃貸借契約を締結するとともに、被控訴人は、その際前賃借人である右島吉から本件建物内の設備一式(営業権も含む。)を代金一八〇万円で買い受けた。

ところで、控訴人は、本件賃貸借契約締結の際仲介の不動産業者から、被控訴人が前記のような趣旨の特約を付けるように要望している旨説明されてこれを承諾していたので、本件賃貸借契約書(甲第一号証の一)中に「乙(被控訴人)が事情により第三者に権利譲渡を為す時は甲(控訴人)は認諾するものとす」る旨の特約条項が書き加えられたが(右特約条項が右契約書に記載されたことは当事者間に争いがない。)、右契約書用紙は、一般的な必要条項が予め印刷された定型的な店舗賃貸借契約書と題する契約書用紙であつて、右の条項中には賃借権の無断譲渡・転貸禁止条項も含まれていたところ、右契約書の作成にあたつて同条項を削除するかどうかについては話題にならず、むしろ、控訴人はもちろん右立合人の不動産業者らは、右にいう「権利譲渡」とは、主として飲食店営業の店舗賃借人が賃貸借契約を解消する場合それまでに投下した資本を回収する目的で店舗内装設備や営業権を次の店舗賃借入に売り渡して譲渡する場合をいうものと理解していて、その場合の店舗の賃貸借関係については、右特約条項があつても改めて賃貸人と右譲受人との間で賃貸借契約を締結すべきものと考えていたため、右「権利譲渡」の特約条項を契約書に記載するにあたつては当事者間に疑義ないし異論は出なかつた。また、控訴人は、本件賃貸借契約締結の際、本件建物明渡時にその八割相当額を返還する旨の約定で被控訴人から保証金一〇〇万円の交付を受けたほかは、いわゆる権利金その他名義書替料等の財産的給付を受けたことはなかつた。

右認定事実によれば、被控訴人が事情により第三者に権利譲渡をなすときは控訴人はこれを承諾するものとする旨の前記特約条項の趣旨は、被控訴人が本件賃貸借契約を解消しようとする場合において、それまでに本件建物に投下した資本を回収することを容易にするために、被控訴人が同人に次いで改めて本件建物を借り受けようとする第三者に対してその営業設備や営業権を譲渡しようとするときは、控訴人において、これを承諾するものとし、当該第三者との間で改めて賃貸借契約を締結することを拒否してもやむをえないような特別な事情のない限り、無闇にその契約の締結を拒んで右営業設備や営業権の譲渡の実現を妨げることはしない旨を当事者相互間で合意したものにすぎないのであつて、これによつて被控訴人が第三者に自由に本件建物賃借権を譲渡し、あるいは同建物を転貸することまでを控訴人において予め一般的に承諾したものではないと解するのが相当である。

被控訴人は、右特約条項にいう「権利譲渡」とは、店舗内の設備や営業権の譲渡を含むものであることはいうまでもないが、それらは店舗賃借権の譲渡ないし転貸と一体になつてこそ意義があり、右店舗賃借権を切り離して右営業権等だけを処分することは、その譲渡価値を全く喪失させるばかりでなく、物理的にも不可能であるから、当然店舗賃借権の譲渡(転貸)をも含むものと解すべきである旨主張する。なるほど一方では、右のように店舗の内装、設備や営業権の譲渡は承認されながら、他方では、その譲受人が当該店舗を使用すること(賃借権の譲渡転貸や新たな賃貸借契約の締結等による。)ができるかどうかがその時における賃貸人の自由意思にかかるというのでは、せつかく特約で右にいわゆる権利譲渡を承認してもらつたことの趣旨の大半が没却されることになるであろう。しかしながら、前認定のように、右権利譲渡が行なわれる際には、その譲受人と控訴人との間で改めて本件建物賃貸借契約が締結されることを控訴人のみならず、被控訴人側不動産業者らも予想していたこと、しかも本件建物賃貸借契約締結の際には被控訴人において保証金を差し入れただけで、同賃借権取得の対価ともいえる程多額の権利金を支払つたわけでもなく、また他になんらの財産的給付をしたわけでもないこと、更に、また賃借権の譲渡という用語は法律用語としてのほか日常用語としても一般に定着しているものと思われるばかりでなく、一般に飲食店関係の店舗賃借権の譲渡といえば、特段の事情がない限り、当該店舗の設備や営業権の譲渡をも含むものと理解されるのが普通であると思われるのに、前記特約条項においては、右のように一般的に理解しやすい賃借権の譲渡という表現を用いず、ことさらに「権利譲渡」という文言が使われていること、しかもまた本件賃貸借契約書中の賃借権譲渡・転貸禁止条項を削除しなかつたこと等の諸点に鑑みれば、前記特約条項をもつて本件建物賃借権の譲渡・転貸を予め一般的に承諾する旨の特約がなされたものと解することはしよせん困難というほかないのであつて、むしろ、前記に認定した諸事情からすれば、右特約条項の趣旨は、さきに認定したように被控訴人において将来本件建物賃貸借契約を解消しなければならない事情が生じた場合には、専ら同建物に投下した資本を回収することを容易にするために、家主に対し造作買取請求権や必要費・有益費償還請求権等を行使することなく、これらの費用を投じた造作その他の店舗設備等を含めた一切の営業設備や営業権等をその後の賃借人に譲渡することとし、そして、この譲渡について家主である控訴人が予め承認しておくこととすれば、その反面、いきおい控訴人としても右譲受人との間で、前示のようなやむをえない特別の事情のない限り、新たに本件建物賃貸借契約を締結すべきことの拘束を課せられることとなる結果、右営業権等の譲渡も容易に実現しうる、いいかえればこれによつて右の投下資本を容易に回収しうるものとしてこれを企図したものであると解するのが相当であり、そうであつてみれば、被控訴人としてもその限りでは当該新賃借人との間で自由に右譲渡契約を締結して投下資本の回収をはかりうるのであるから、前記特約条項の「権利譲渡」には賃借権の譲渡や転貸を含まないと解しても決して無意味であるとはいえないのである。

そして、他に本件建物を転貸することを控訴人が予め一般的に承認していたものと認めるに足りる証拠はない。

(唐松寛 藤原弘道 平手勇治)

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